紅 楼 夢

  作  者

  作者とされる曹雪芹の祖父は康熙帝の時代に江寧織造として江南で清朝のために情報収集活動を行っていた曹寅という人物である。 康熙帝の寵愛を得て莫大な富を蓄積し、曹雪芹の父もその職を継いだが、雍正帝の時代になると寵愛は失われ、家産は没収された。一家は後に北京に移り、曹雪芹が紅楼夢を描いた18世紀半ばには粥を啜るような窮貧生活であったとされる。 このため、曹雪芹についてはよくわからないことが多い。なお、雪芹は字で、名は霑(てん)という。

  ストーリー

  祖先の勲功により代々高官を出し、皇室の姻戚でもある上流階級の賈氏一族の貴公子賈宝玉を主人公とする。賈宝玉は勉学が嫌いで、豪邸に同居する美少女たちと風流生活を送る。小説はその生活の細部を描き、美少女たちとの交情を克明に記しながら進行する。賈宝玉は趣味の合う美少女、 林黛玉と相思相愛の関係となるが、お互いに心がうまく伝えられない。この繊細でプライドの高い林黛玉が女主人公の位置にある。だが、二人はお互いに引かれながらも、ささいな嫉妬から大喧嘩をし、結局は「金玉の縁」で結ばれた温和な良妻賢母型の薛宝釵と結婚することになる。この三角関係を軸に小説は展開する。やがて病弱な林黛玉は恨みを抱いて死に、賈家は権勢を嵩に民衆を苦しめた罪で家産を没収され没落し、人々も離散していく。

  特 徴
  この小説の特徴はストーリー中心のロマンではなく、当時の上流階級の日常生活が登場人物400人を超える規模で細部まで描きこまれていることである。三国志演義の「武」、水滸伝の「侠」に対して紅楼夢は「情」の文学であるとされる。 また士大夫の経世済民という表向きの世界ではなく、大貴族の深窓の令息令嬢の心理のひだが繊細に描きこまれている。弱くて感じやすい「児女の情」をテーマとするといえる。 その一方で、主人公たちは儒教道徳や官僚の腐敗、不正に対する痛烈な批判を口にしており、乾隆盛世と呼ばれた当時の社会に対する批判的色彩も帯びている。 なお、作中に当時の貴族社会の生活が克明に描かれており、文化史的にも価値がある。

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